Sunday, October 11, 2020

荒谷卓『戦う者たちへ』

Araya, T. (2015). Tatakau monotachi e: Nihon no taigi to bushido. Namikishobo.

政府が認めた拉致認定者は現在まで十七人だが、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による拉致の可能性を調査する市民団体である「特定失踪者問題調査会」によれば「拉致の疑いが否定できない特定失踪者は、二百五十人以上にのぼり、うち拉致の疑いが高いとした失踪者は七十人以上に達している」という。

この人たちは、まったくの一般市民で特別の人が狙われたわけではない。しかも、拉致現場は日本全国のみならず海外にまで及ぶ。特に問題なのは、拉致に加わった犯人が、いまだ一人も捕まっていないということだ。

この拉致の状況をシミュレートするために、関係者とともに実際に拉致状況を再現してみた。その結果、国家も国民も警戒心の薄い日本では、どこでも簡単に日本人を拉致できることが認識できた。とはいっても、一人の人間を拉致するためには、情報をとって準備をし、拉致した被害者を国外に連れ出すのに、少なくとも十名以上の協力者が必要だ。しかも、これまでの手口からは、その土地に詳しい人物、つまり現地の日本人が加担していないと難しいということもわかった。 

このような拉致がこれまで頻繁に繰り返され、その犯人が一人も捕まっていないのに、誰もこの状況を危険視しないのはなぜだろうか。(p.p.1-2)

Saturday, July 18, 2020

岡田尊司『脳内汚染』

Okada, T. (2008). Nōnai osen. Tōkyō: Bungei Shunjū.


ゲーム制作者のハウランドは、職業的な見地から、ゲームには五つの中毒性の要素があるとしている。①ゲームを終了させる中毒、②競争の中毒、③熟練の中毒、④探索の中毒、⑤高得点の中毒である。…ゲームは最高の叡智を傾けて、中毒を起こしやすく設計された、一種の「合成麻薬」だということである。
『タイム』誌によると、ビデオゲームにこうした麻薬的な依存性があることは、ゲーム開発者の間では公然の秘密だという。タイム誌が接触したあるゲーム開発者は、匿名を条件に次ぎのように語っている。
「ビデオゲームは、すべてアドレナリンを出せるかどうかにかかっている。アドレナリンを出させる一番手っ取り早い方法は、やられると思わせることだ」
医学的にいって、交感神経からアドレナリンがもっとも盛んに血液中に放出されるのは、ファイト・アンド・フライト、つまり、やるかやられるかという危険の中で、必死に戦うか、逃げている瞬間である。そして、敵を倒し、危険を逃れたとき、達成感とともに、脳の中ではドーパミンが放出されることになる。
覚醒剤打ったときも、ギャンブル中毒の男がギャンブルをしているときも、アドレナリンとともに、ドーパミン・レベルの上昇が起きている。アドレナリンは、心臓をどきどきさせ、ドーパミンは気分を高揚させる。
ゲーム開発者は、今にもやられそうな状況を、できるだけリアルに体験させるシチュエーションを作ることで、体にはアドレナリンを、脳内にはドーパミンを溢れさせる。そのために、日夜知恵を絞っているのだ。(p.p.100-101)


テレビをはじめとする映像メディアに、人々がどれほど依存しているかは、それに依存することをやめようと思う人がほとんどいないため、まったく意識されないほどである。

だが、映像メディアのない環境に置かれると、依存を形成している人は、しだいに落ち着かなくなり、映像メディアの探索行動を開始する。せっかく旅行に行ったのに、ホテルに着くなり、テレビを見始める人では、そうした依存が疑われる。いつも見ている番組の視聴を遮られると、ひどく不機嫌になり、攻撃的な反応を示す。普段は穏やかな人が、そうしたときだけ血相を変えることもある。ある研究では、一週間テレビの視聴をやめさせる実験を行ったところ、イライラが増え、口論や殴り合いのケンカが起きてしまったという。テレビ依存も、ゲーム依存同様、物質依存と変わらない性質を持っているのである。(p.124)

Friday, July 3, 2020

内海聡『99%の人が知らないこの世界の秘密』

Utsumi, S. (2014). Kyujukyupasento no hito ga shiranai kono sekai no himitsu: Karera ni damasareruna. Isutopuresu. 

恐怖の飛行機雲「ケムトレイル」

ケムトレイルとは、簡単にいえば「毒をふくんだ飛行機雲」である。さまざまなウイルスや有害物質を人工繊維の中にふくませ、それを上空から散布しているのだ。…一躍、時の人となった元CIA(米中央情報局)局員、エドワード・スノーデン氏もケムトレイルについて言及している。
ケムトレイルには、以下の物質がふくまれているとされる。


・突然変異を起こした三〇〇種類のカビ
・乾燥させた赤血球
・二六種類の金属(バリウム、アルミニウム、ウランなど)
・さまざまな病原菌や化学物質
・鎮静剤などの薬
・カチオン性ポリマー繊維
・繊維に閉じ込められた小さな寄生虫の卵
・地球外バクテリア


ケムトレイルは、先進国の政府、軍、製薬企業の共同プロジェクトだ。…本当の目的は、政府は人口削減、軍は生物兵器と気象操作の実験、製薬企業は人々を病気にして薬を売ることである。

…ケムトレイルの被害が最も深刻なのは米国だが、この国ではケムトレイルが原因とみられる奇病が流行している。それが「モルジェロンズ病」だ。すでに六万世帯で被害が発生しているという。…すでに米国では有志団体による告発が始まっている。(p.p.113-116)

こんな「最新兵器」がすでに使われている

もっと恐ろしい話もある。ケムトレイルの中に「バイオAPI」(ナノロボット)という最新ナノ兵器を混ぜ込もうというのだ。
…こうした技術の大半は軍事技術からきている。開発しているのは、米国防総省の研究部門である「DARPA(ダーパ)」(国防高等研究局)だ。

…彼らは脳を模した新しい「チップ」の開発も手がけているし、マッハ四〇(四ではない)の飛行機の研究も手がけているし、高速ステルス機の研究も手がけてるし、脳内チップなどを使った「疑似テレパシー」技術(メッシュネットワーク)についても研究しているし、四足歩行ロボットについても研究している。「透明ディスプレイ」もすでに開発されており、まさに映画『ミッション・インポッシブル』の世界が現実になっている。
これらはすべて米国で暴露されていることであり、ウソでも誇張でもなんでもない事実だ。


あなたがたの使っているスマートフォンは、そんな軍事技術の時代遅れの産物だ。インターネットも同様である。(p.p.117-118)

Tuesday, April 21, 2020

Moreno, 『操作される脳: Mind Wars』

Moreno, J. D., Kubota, K., & Nishio, K. (2008). Sōsa sareru nō: Maindo uōzu. Tōkyō: Asukīmediawākusu. 
(The original title: Jonathan D. Moreno, Ph.D., "Mind Wars - Brain Research and National Defense")

臭気兵器の設計者は長らく糞便の臭いに心を奪われていたようである。一九九八年の軍の文献によれば、第二次世界大戦の際の発想は、ドイツ占領軍にこっそり「フー・ミー(Who Me)」という化学薬品をなすりつけて、「物笑いの種」にしてやろうというものだった。(p.296)

二〇〇一年六月、テキサスの、元海軍中佐が代表となっている企業と海軍研究所の科学者とが、糞便の臭いの元となる化合物に対する特許を取得し、「不愉快な嗅覚刺激を用いて、人間の行動をコントロールしたり変更させたりするという手法は、現代の戦争において魅力的な発想である」と述べている。エッジウッドでも「米国政府基準トイレ臭気(U.S. Government Standard Bathroom Odor)」を用いた同様の研究が行われている。(p.298)


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ばい菌を戦争に利用しようという発想は(城壁から感染した馬の死骸を投げ込むといった雑な形ではあったが)古代から存在していた。現代的な微生物学は、単に経験に頼るのではなく「合理的」な方法で病原体を選択、さらにいは設計することまで可能にしている。…アメリカ、イギリス、カナダは共同で攻撃用の秘密生物兵器プログラムを立ち上げたが、これには米国陸軍化学戦サービス(Army Chemical Warfare Service)が関係していた。
(p.325)


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一九七二年に、アメリカは生物兵器に関する国際条約、生物毒素兵器禁止条約(Biological and Toxin Weapons Convention/BTWC)を批准した。この条約は平和的および防衛目的の研究以外は許されない、と明言するものである。ソビエト連邦も批准国となったが、アメリカが生物兵器プログラムを終了させたことを信じようとしなかった。その疑念のもと、ソビエトは大がかりな最高機密システムを構築した。これはバイオプレパラートと呼ばれ、民間の皮をかぶって少なくとも一九九二年までは活動していた。
…一九七九年には、スヴェルドロフスクの生物兵器工場から炭疽菌が漏出する事故が起こったのである。正確な死亡者数は知られていないが、見積もりは六六人(ソビエト当局の発表数)から一〇〇人以上まで様々である。
(p.p.325-327)


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アメリカ科学者連盟(Federation of American Scientists/FAS)の生物兵器の専門家であるバーバラ・ハッチ・ローゼンバーグが『ディスアーマメント・ディプロマシー(軍縮外交)』という機関紙に書いた論文によれば、生物毒素兵器禁止条約が一九七五年に発行してから一五~二〇年間というもの、国防総省が行うプログラム自体が機密扱いにされることはなかったものの、「アメリカ軍の欠陥や脆弱性、あるいは技術の飛躍的な発展」を明らかにするような研究結果については機密にされていた。

その後、おそらく湾岸戦争とソビエトのバイオプレパラートの発覚とが原因なのだろうが、国防総省は方針を変えたように見える。9・11のちょうど一週間前、『ニューヨーク・タイムズ』は、機密扱いされていた三つの生物兵器防衛プロジェクトについて報道し、条約を都合のいいように解釈していると指摘した。三つのうち、一つはワクチンに耐性を示す炭疽菌の作出だったが、ソビエトがそのような炭疽菌を生産したと考えられていて、それに対する防衛方法を見いだすためというのが大義名分だった [注182] 。アメリカと西側同盟諸国はこの暴露に動揺を示したが、9・11の攻撃が起こったために、沈黙に転じた。(p.339)


[注182]…ニューヨークタイムズがすっぱ抜いたプロジェクトについてアメリカ政府官僚は防衛目的だと主張したが、細菌工場で炭疽菌を大量に培養し、細菌爆弾のモデルを炸裂するなど、兵器開発そのものと言える点があった。

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ウイルスのような生物兵器は三つの要素が関係する。まずペイロード、つまりウイルスの遺伝情報、次にウイルス外皮など送達システムに関わるもの[注183]、さらに、人体の器官系など標的とされるものであり…いずれも、遺伝子工学で病原体を加工することによって操作し得る。たとえば、ウイルスか細菌の病原体に、外来、あるいは合成した遺伝子を挿入すれば、野生株が本来もたない性質を加えることができる。うまくいけば、脳や神経系を標的にした新型神経兵器の開発が可能なのだ。



[注183]ウイルス兵器は人体の細胞内に侵入することによって効果を発揮する。細胞内に侵入する際、ウイルスは、対象となる細胞表面の受容体など、特定のタンパク質に結合するが、ウイルス側に細胞表面のタンパク質が存在していなければ結合できず、侵入もできない。人体を構成する細胞は、種類によってそれぞれ特定のタンパク質が細胞膜に発現している。ある特定の細胞にウイルスを感染させたいと思ったら、その細胞のみで発現するタンパク質に結合できるタンパク質をもつように、ウイルスの遺伝子を操作すればよいことになる。


過去、旧ソビエト連邦では攻撃目的の生物兵器開発計画が進められていた。…先進的ウイルス神経兵器によって、短いペプチド鎖(アミノ酸が鎖状に結合したもので、生物活性を有する)をコードする合成遺伝子を中枢神経に送り込むというものである。中枢神経系に入ると、合成遺伝子をもとにデザイナーペプチドが生成され、それが奇襲攻撃を行うのである。このペプチドの効果は、その病原体が通常引き起こす症状とは全く違う。たとえば、脳内で生成されると悪性の神経変調物質として働き、ニューロン間の関係や通信を変化させて脳の機能を無効にしてしまう。感染性病原体としては、合成遺伝子を速やかに標的に送り届ける能力をもつものが選ばれる。この新型神経兵器において、病原体はまさにトロイの木馬であり、通常ならば到達できないようなところまで遺伝子を送り込むことが可能になる。
(p.p.347-348)



「…部隊(ユニット)が機能するための能力は、すべて頭のなかにあります。そうすると、もし恐怖やその他の感情によって部隊の忠誠心を崩壊させることができれば、軍隊は、力をもって戦う存在であることをやめてしまうでしょうね。たとえば閉所恐怖症に襲われた兵士は防護マスクをむしりとってしまうでしょう。他には、恐怖、のどの渇き、心拍数増加、腸の運動亢進とか……。ペプチドの効果としてはこのあたりが狙われていると思われます。」(生物兵器の専門家) (p.350)

 Russia accuses US of running a biological weapons lab in Georgia

Saturday, February 29, 2020

高田昌幸[編]『希望』

Takada, M. (2011). Kibō. Tōkyō: Junpōsha. 

見栄とか意地とかプライドだとか、見えない怪物だよ

茂幸雄(しげ・ゆきお) 六七歳
自殺防止のNPO代表 福井県


自殺したときの遺書なんか読むと、皆さん、「死にたくない」ということなんですね。‥自殺未遂で保護した人の話を聞くと、やっぱり死にたくないのよ。‥助けを求めたいんだけど、助けを求める場所がない。(p.p.75-76)

東尋坊では‥飛び込む場所も三ケ所ってほとんど決まっている。そこに保安員を置いておけばいいんですよ。あの当時、シルバーに働いてもらおうっちゅう、行政のほうで割り当てがあって、それをこっちに持ってきてくれ、と言ったんだけど、地元が反対するからできないんや、って。行政のほうは、地元の顔色ばっかりうかがって、何もしない。そういう風潮があったよね。
…ここの町全体が、自殺の名所を売り物にして観光が成り立っていた。(p.77)


もう一つ言うと、自殺したいと言う人が、どこへ助けを求める場所があるんですか、って。警察は何も権限ないのね。警察官職務執行第三条に「保護」ってあるんやけど。犯罪でないから、警察は保護したら、二四時間以内に保護者か福祉課に渡すことになっているの。市町村が保護を決定して実施しなければならない、という規定があるんだけど。それを、自分とこの財政負担になるんで、県外の者を何でせにゃいかんの、って言うの。‥白昼堂々と(保護の拒否が)行われていて。これもまさしく犯罪なんやって。‥ここで自殺を誘発している。死にたくないのに死なせているのは誰や、って。(p.80)

Monday, February 24, 2020

本間龍『原発プロパガンダ』

Honma, R. (2016). Genpatsu puropaganda

欧米では寡占を防ぐために、一業種一社制、つまり、一つの広告会社は同時に二つ以上の同業種他社の広告を扱えないという制度を取っている。たとえば、自動車業界でトヨタと契約したなら日産やホンダの仕事はできない、といった縛りがあるのだ。…日本にはそうした決まりがない。このため、どの業種でも上位二社が全てのスポンサーを得意先として抱えることができるうえ、CM制作から媒体購入までの一貫体制を敷ける二社が圧倒的に優位な仕組みとなっている。

さらに特殊なのは、欧米の広告会社の基本スタンスが「スポンサーのためにメディアの枠を買う」なのに対し、日本では「(メディアのために)メディアの枠をスポンサーに売る」という体質を持っている。つまりメディアは、電博に「広告を売ってもらう」という弱い立場にあるため、昔も今もこの二社には絶対に反抗できないのだ。

反原発報道を望まない東電や関電、電事連などの「意向」は両社によってメディア各社に伝えられ、隠然たる威力を発揮していった。東電や関電は表向きカネ払いの良いパトロン風の「超優良スポンサー」として振る舞うが、反原発報道などをしていったんご機嫌を損なうと、提供が決まっていた広告費を一方的に引き上げる(削減する)など強権を発動する「裏の顔」をもっていた。そうした「広告費を形にした」恫喝を行うのが、広告代理店の仕事であった。


そして、原発広告を掲載しなかったメディアも、批判的報道は意図的に避けていた。電事連がメディアの報道記事を常に監視しており、彼らの意図に反する記事を掲載すると専門家を動員して執拗に反駁し、記事の修正・訂正を求められたので、時間の経過と共にメディア側の自粛を招いたのだった。(p.p.iv-v)

電事連は…過去の広告費を一切公表していないが、その金額は二〇〇〇年以降毎年五〇〇億円以上だったと推測されており、だとすれば東電含め年間七〇〇億円以上という、途方もない巨額が原発プロパガンダに費やされていたことになる。
電事連は電力各社からの賛助金で活動しているのだから、つまりは電力会社が広告していたのに等しい。そういう団体が予算規模を開示せず、国民から吸い上げた電気料金を湯水のように使い、国内広告市場で「知られざる巨大スポンサー」として君臨、国民を洗脳していた


…その「広告スポンサー」としての表の顔とは別に、電事連には裏の顔があった。それは、原発に関してネガティブな記事を書いたり、放映したメディアに対し、執拗に抗議し訂正を迫る「圧力集団」としての顔である。…当該記事の内容を誤りとし、中には専門用語を延々と羅列し、掲載メディアに対し、その訂正を迫ったものも多々あった。…ことあるごとに電事連から抗議が来るのなら、「面倒だからもう原発批判の記事を書くのはやめよう」という気持ちにさせる目的があったのだ。


ちなみにこれらの記録はすべて電事連のHPにアップされていたが、原発事故後の二〇一一年四月一一日に全削除された。それは、原発プロパガンダに荷担した証拠隠しの一端だったのだろう。(p.p.27-30)

チェルノブイリ原発事故直後はさすがに全国紙での広告掲載は影を潜めたが、地方では続いていた。ようやく八八年になって、全国紙での原発広告復活の狼煙となったのは、六月から朝日や讀賣新聞に掲載された「原子力発電、あなたのご質問にお答えします」という全15段の4回シリーズだった(「私たちはこう考えて原子力発電を進めています。」の15段広告を含めれば5回)。

 このシリーズは博報堂の制作で、読者から寄せられた質問に電事連が答えるという形式をとった。まだインターネットも携帯電話もない時代に、広告主と読者の双方向性を新聞紙上で実現しようとした、当時としては新しいやり方ではあったが、難解な原発問題に関して読者からの反響は集まらず、紙上に掲載された質問のほとんどは、博報堂社員の家族が書いたはがきによるヤラセであった

 しかも、読者の原発に対する不信感を取り除こうとするあまり、八八年七月五日掲載の回では「チェルノブイリのような事故は決して起こり得ない」などと断定している。ではもし起きたらどうなるのか、という当然の疑問には答えようがなかった。結局、二〇年後の二〇一一年の事故発生時でさえ、何もできなかったことは周知の通りである。(p.p.63-65)


その後事故の深刻さが明らかになると共に、原発プロパガンダに手を染めていた企業や団体は脱兎のごとく証拠隠滅に走った。原子力ムラ関連団体は、それまでHPに所狭しと掲載していた原発CMや新聞広告、ポスター類の画像を一斉に削除したのだ。

事故以前、東電のHP上には様々な原発推進広告が掲載されていたが、一斉に消去され、二〇〇六年から新聞や雑誌広告と連動させてHP上でも展開していた漫画によるエネルギー啓蒙企画「東田研に聞け エネルギーと向き合おう(弘兼憲史)」もいち早く三月末には削除した。


…さらに原発プロパガンダの総本山である電事連さえ、原発に批判的な記事をあげつらって反論していた「でんきの情報広場」の過去記事を全て削除した。NUMOも、過去の新聞広告やCMの記録をHPから全部削除した。そして資源エネルギー庁も、HPに掲載していた子ども向けアニメ「すすめ!原子力時代」などを削除した。また、二〇一〇年から大量の原発広告を出稿した東芝も、自社HPの広告ライブラリーから原発に関連する広告画像をすべて削除した。

そうした証拠隠滅に走ったのは、原子力ムラ関連団体だけではなかった。驚くべきことに、大手新聞社や雑誌の雑誌社の過去掲載広告事例集からも原発広告が削除された。事故の前年に一〇回も原発広告を掲載していた讀賣新聞でさえ、自社の広告掲載事例から東電の原発広告を消去した。

…これらの団体や企業が、それぞれが関与した証拠をことごとく消去したのは、そこに後ろめたさがあったからに他ならない。莫大な金を投入して作ってきた広告は、すべて嘘だったのだ
あれほど絶対安全だといい張り、クリーンだなどと幻想を振りまいていたのに、事故が起きたらその証拠を消去しなければならないほど、自分たちの言説に責任も誇りも持っていなかった。カネに魂を売って安易に作り続けてきた作品群は、カネの切れ目が縁の切れ目とばかり、あっさり闇に葬られた。…まさしくそれが悪しきプロパガンダであったことを、鮮やかに証明したのだった。(p.p.137-140)

Friday, February 14, 2020

末井昭『自殺会議』

Suei, A. (2018). Jisatsu kaigi. Asahishuppansha. 

繊細と乱暴 東尋坊の用心棒

…数人いた議員さんのなかで特に権威のある議員さんが、茂さんの横に来て次のように言ったそうです。
「〔略〕東尋坊での自殺防止については何も言わず、何も行動を起こさないでおくのが得策なんですよ。悲しい事ですが、ここ東尋坊では全国から自殺をしに沢山の人が来ており、自殺の名所になっていることは知っています。しかしその事で東尋坊の土産屋さんや三国町も潤っているのです。あの東尋坊の景観だけでは他県の景色に勝てません。〔中略〕自殺防止については、そのことを口にすること自体が地元の人の意に反することになり、自殺防止を口に出しただけで、その警察官は、三国警察署にいる間は何も協力してもらえなくなるよ……」
これを読んだときゾッとしました。自殺してくれる人がいるから東尋坊が潤っている、だから自殺者を減らしてはいけないと言っているのです。それに反した行動を取ろうとする茂さんを脅しているのです。
(p.103)


国やら県とも話するんですけど、みんな青少年の自殺防止せにゃあかんと言う。私から言わせると「ボケるな!」ですよ。ものすごう腹立つんです。ここにいて、今日までに高校生や中学生、二十一人ほど助けてきました。あの言葉、全然違うんですよ、解釈が。
いじめられたら自殺する。逆に言えば、いじめられたら自殺しなきゃあかんと言っとるんです。そしたら自分の気持ちが認められる。社会に対して、友達に対して、学校に対して抗議している、それが認められる。僕はそのために自殺しなきゃいけなかった。まともにそういう人たちの話を聞いていない。聞いてないから報道にもならん。間違った対策を学校当局がやっとる。
マスコミがよー聞きに来るんです。「最近どんな自殺が多いですか?」「こんなんですか?」。「ボケんなっ!」って怒ってやるんです。なんとかして形をつくりたいんですよ。それで十把ひとからげにしてしまっているんです。それによって苦しんでる人がたくさんいる。

…先生はいろんなことを勉強して、いろんなこと知ってなあかんのやけど、私に言わせればまったく聖職と言われることができてない。彼らはみんな自分なんですよ。自分のことしか考えてんのですよ。この子にこうしてあげたよ、誰もひとことも言わない。全体的におかしいと思うんです、死に対して。自殺という言葉を軽はずみというか、もてあそんでいるとうのかな、ワシから言わせれば。(p.p.111-112)

自殺を決心した人が、みんな助けてくれと言うんです。今日まで声を掛けた人五九九(二〇一七年七月二十一日現在)人、みんな死ぬの怖いって言ってるんです死にたくないって言ってるんです。だから人命救助なんです。これを発信する人がどこにもいないんです。(p.p.112-113)

カウンセラーいますね。悩みを聞いてあげて共感しなさい、そうすればカウンセラーとしての資格を与えてあげますと言うんです。カウンセラーって何?共感って何?その人の悩みごとにうまく共感できて受け止められたって?じゃあこうしなさいって具体的なこと言えますか?そんなもんで国家資格与えるの?それで命救えんの?
それは共感じゃない。言葉だけの「わかったよ」っていうこと。ほんとうの共感は、会ったときからできる。共感できたらじっとしていられんって。死にたいってんだよ(と言って、茂さんは少し涙ぐんでいるように見えました)。
資格者はいらんのです。私のために何をしてくれるかだけ。精神科行きなさい。病院行って薬もらって先生に言われた通り薬飲んで、最初二粒から始まりました、いつの間にか十五粒に増えてました。そんな人、何人もここへ来てる。命に関しておかしいと思わんのかって。
ワシ、マスコミにバンバン出てます。ところがカットカット。テレビ局がみんなカットする
――どんなことがカットされるんですか?
いまワシがゆーたこと。(p.p.117-118)

Monday, January 20, 2020

有馬哲夫『原発と原爆』

Arima, T. (2012). Genpatsu to genbaku: Nichibeiei kaku buso no kurayami. Bungeishunju


二〇一一年三月一一日三陸沖を震源とするマグニチュード九・〇の地震が起き、巨大津波が福島第一原子力発電所の四基の原子炉とその周辺施設を襲った。…冷却水の循環が止まり、過熱した炉心は溶融を起こした。次いで、原子炉建屋内に水素ガスが充満し、ついには爆発した。旧ソ連のチェルノブイリ事故以来最悪の放射能漏れ事故が起こった。
…放射能被害のために放棄するしかない土地や財産など、また、農作物やその他の生産品に与えた直接の被害や風評被害を補償するため、六兆円が必要になると見積もられている。(p.p.9-10)


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アメリカ労働総同盟の日本支部代表のリチャード・デヴェラールが五三年一〇月二九日に国務長官と会ったときの発言だ。   

原爆障害調査委員会(atomic Bomb Causality Commission, 略してABCC)の広島での活動が私たちの良心の痛みになっています。…

…原爆被害者救済のための研究組織であるかのようにミスリードして日本側から協力を引き出してきた。だが、実際は被害者救済など目的としておらず、原爆や放射能が人体にどのような被害を与えるのかについてのデータを集め、分析することしかしてなかった。しかも、日米合同とは名ばかりで、実態はアメリカの軍とアメリカ原子力委員会の合同組織だった。
デヴェラールたち心あるアメリカ人は、アメリカが広島と長崎に原爆を投下しただけでなく、さらにその被爆者をモルモット代わりに扱っておきながら、日本側には医療行為を施すかのような誤解を与え協力させていたことに大きな良心の呵責を感じていた。(p.38)

Saturday, January 4, 2020

池田昌昭『完全犯罪JAL123便墜落事件』

Ikeda, M. (2003). Kanzen hanzai: Jaru hyakunijūsanbin gekitsui jiken. Tōkyō: Bungeisha. 

目撃証言

午後六時四十五分 長野県南佐久郡南相木村上粟生の主婦が、胴体から煙を噴きながら超低空で、東北の方角へ飛んで行くのを目撃している。(「ドキュメント日航機墜落」『北陸中日新聞』一九八五年八月十三日付朝刊))

…埼玉県浦和市住民の目撃証言もある。「マンションのベランダから西空を眺めていたところ、突然雲の透き間から太陽が射すようなオレンジ色の閃光を見た。双眼鏡で覗くと、両側から青、真ん中から赤い光を発した大型機が北の方へ消えた」。(「各地で多数の目撃者」『朝日新聞』一九八五年八月十三日付朝刊)

…長野県南佐久郡川上村住民の証言。
「埼玉方面から飛んできた飛行機が赤い炎をあげ、やがて黒い煙を残して南相木村と群馬県境に消えた」。(「各地で多数の目撃者」『朝日新聞』一九八五年八月十三日付朝刊)

(p.p.65-67)

生存者は、救出された四人以外にもいた

八月十三日付『朝日新聞』夕刊最終版4版「大刷り」一面トップ見出しは「生存者八人」だった。(朝日新聞社会部編『日航ジャンボ機墜落』朝日新聞社 二〇一~二〇二ページ)

…この男の子[※公表された4名以外の一人]の年齢が七、八歳とすれば、八月十三日昼間に、現場実況生中継を行ったフジテレビクルーによって、この七、八歳の男の子が担架に乗せられて運ばれるのが目撃され、フジテレビでその模様が実況放送されている。

(p.p.158-159)