Sunday, October 11, 2020

荒谷卓『戦う者たちへ』

Araya, T. (2015). Tatakau monotachi e: Nihon no taigi to bushido. Namikishobo.

政府が認めた拉致認定者は現在まで十七人だが、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による拉致の可能性を調査する市民団体である「特定失踪者問題調査会」によれば「拉致の疑いが否定できない特定失踪者は、二百五十人以上にのぼり、うち拉致の疑いが高いとした失踪者は七十人以上に達している」という。

この人たちは、まったくの一般市民で特別の人が狙われたわけではない。しかも、拉致現場は日本全国のみならず海外にまで及ぶ。特に問題なのは、拉致に加わった犯人が、いまだ一人も捕まっていないということだ。

この拉致の状況をシミュレートするために、関係者とともに実際に拉致状況を再現してみた。その結果、国家も国民も警戒心の薄い日本では、どこでも簡単に日本人を拉致できることが認識できた。とはいっても、一人の人間を拉致するためには、情報をとって準備をし、拉致した被害者を国外に連れ出すのに、少なくとも十名以上の協力者が必要だ。しかも、これまでの手口からは、その土地に詳しい人物、つまり現地の日本人が加担していないと難しいということもわかった。 

このような拉致がこれまで頻繁に繰り返され、その犯人が一人も捕まっていないのに、誰もこの状況を危険視しないのはなぜだろうか。(p.p.1-2)