Tuesday, April 21, 2020

Moreno, 『操作される脳: Mind Wars』

Moreno, J. D., Kubota, K., & Nishio, K. (2008). Sōsa sareru nō: Maindo uōzu. Tōkyō: Asukīmediawākusu. 
(The original title: Jonathan D. Moreno, Ph.D., "Mind Wars - Brain Research and National Defense")

臭気兵器の設計者は長らく糞便の臭いに心を奪われていたようである。一九九八年の軍の文献によれば、第二次世界大戦の際の発想は、ドイツ占領軍にこっそり「フー・ミー(Who Me)」という化学薬品をなすりつけて、「物笑いの種」にしてやろうというものだった。(p.296)

二〇〇一年六月、テキサスの、元海軍中佐が代表となっている企業と海軍研究所の科学者とが、糞便の臭いの元となる化合物に対する特許を取得し、「不愉快な嗅覚刺激を用いて、人間の行動をコントロールしたり変更させたりするという手法は、現代の戦争において魅力的な発想である」と述べている。エッジウッドでも「米国政府基準トイレ臭気(U.S. Government Standard Bathroom Odor)」を用いた同様の研究が行われている。(p.298)


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ばい菌を戦争に利用しようという発想は(城壁から感染した馬の死骸を投げ込むといった雑な形ではあったが)古代から存在していた。現代的な微生物学は、単に経験に頼るのではなく「合理的」な方法で病原体を選択、さらにいは設計することまで可能にしている。…アメリカ、イギリス、カナダは共同で攻撃用の秘密生物兵器プログラムを立ち上げたが、これには米国陸軍化学戦サービス(Army Chemical Warfare Service)が関係していた。
(p.325)


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一九七二年に、アメリカは生物兵器に関する国際条約、生物毒素兵器禁止条約(Biological and Toxin Weapons Convention/BTWC)を批准した。この条約は平和的および防衛目的の研究以外は許されない、と明言するものである。ソビエト連邦も批准国となったが、アメリカが生物兵器プログラムを終了させたことを信じようとしなかった。その疑念のもと、ソビエトは大がかりな最高機密システムを構築した。これはバイオプレパラートと呼ばれ、民間の皮をかぶって少なくとも一九九二年までは活動していた。
…一九七九年には、スヴェルドロフスクの生物兵器工場から炭疽菌が漏出する事故が起こったのである。正確な死亡者数は知られていないが、見積もりは六六人(ソビエト当局の発表数)から一〇〇人以上まで様々である。
(p.p.325-327)


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アメリカ科学者連盟(Federation of American Scientists/FAS)の生物兵器の専門家であるバーバラ・ハッチ・ローゼンバーグが『ディスアーマメント・ディプロマシー(軍縮外交)』という機関紙に書いた論文によれば、生物毒素兵器禁止条約が一九七五年に発行してから一五~二〇年間というもの、国防総省が行うプログラム自体が機密扱いにされることはなかったものの、「アメリカ軍の欠陥や脆弱性、あるいは技術の飛躍的な発展」を明らかにするような研究結果については機密にされていた。

その後、おそらく湾岸戦争とソビエトのバイオプレパラートの発覚とが原因なのだろうが、国防総省は方針を変えたように見える。9・11のちょうど一週間前、『ニューヨーク・タイムズ』は、機密扱いされていた三つの生物兵器防衛プロジェクトについて報道し、条約を都合のいいように解釈していると指摘した。三つのうち、一つはワクチンに耐性を示す炭疽菌の作出だったが、ソビエトがそのような炭疽菌を生産したと考えられていて、それに対する防衛方法を見いだすためというのが大義名分だった [注182] 。アメリカと西側同盟諸国はこの暴露に動揺を示したが、9・11の攻撃が起こったために、沈黙に転じた。(p.339)


[注182]…ニューヨークタイムズがすっぱ抜いたプロジェクトについてアメリカ政府官僚は防衛目的だと主張したが、細菌工場で炭疽菌を大量に培養し、細菌爆弾のモデルを炸裂するなど、兵器開発そのものと言える点があった。

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ウイルスのような生物兵器は三つの要素が関係する。まずペイロード、つまりウイルスの遺伝情報、次にウイルス外皮など送達システムに関わるもの[注183]、さらに、人体の器官系など標的とされるものであり…いずれも、遺伝子工学で病原体を加工することによって操作し得る。たとえば、ウイルスか細菌の病原体に、外来、あるいは合成した遺伝子を挿入すれば、野生株が本来もたない性質を加えることができる。うまくいけば、脳や神経系を標的にした新型神経兵器の開発が可能なのだ。



[注183]ウイルス兵器は人体の細胞内に侵入することによって効果を発揮する。細胞内に侵入する際、ウイルスは、対象となる細胞表面の受容体など、特定のタンパク質に結合するが、ウイルス側に細胞表面のタンパク質が存在していなければ結合できず、侵入もできない。人体を構成する細胞は、種類によってそれぞれ特定のタンパク質が細胞膜に発現している。ある特定の細胞にウイルスを感染させたいと思ったら、その細胞のみで発現するタンパク質に結合できるタンパク質をもつように、ウイルスの遺伝子を操作すればよいことになる。


過去、旧ソビエト連邦では攻撃目的の生物兵器開発計画が進められていた。…先進的ウイルス神経兵器によって、短いペプチド鎖(アミノ酸が鎖状に結合したもので、生物活性を有する)をコードする合成遺伝子を中枢神経に送り込むというものである。中枢神経系に入ると、合成遺伝子をもとにデザイナーペプチドが生成され、それが奇襲攻撃を行うのである。このペプチドの効果は、その病原体が通常引き起こす症状とは全く違う。たとえば、脳内で生成されると悪性の神経変調物質として働き、ニューロン間の関係や通信を変化させて脳の機能を無効にしてしまう。感染性病原体としては、合成遺伝子を速やかに標的に送り届ける能力をもつものが選ばれる。この新型神経兵器において、病原体はまさにトロイの木馬であり、通常ならば到達できないようなところまで遺伝子を送り込むことが可能になる。
(p.p.347-348)



「…部隊(ユニット)が機能するための能力は、すべて頭のなかにあります。そうすると、もし恐怖やその他の感情によって部隊の忠誠心を崩壊させることができれば、軍隊は、力をもって戦う存在であることをやめてしまうでしょうね。たとえば閉所恐怖症に襲われた兵士は防護マスクをむしりとってしまうでしょう。他には、恐怖、のどの渇き、心拍数増加、腸の運動亢進とか……。ペプチドの効果としてはこのあたりが狙われていると思われます。」(生物兵器の専門家) (p.350)

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