Saturday, July 28, 2018

Dolman,『21世紀の戦争テクノロジー』

Dolman, E. C., & Momoi, R. (2016). 21seiki no senso tekunoroji: Kagaku ga kaeru mirai no senso

Original Book: Dolman, E. C. (2016). Can science end war?. Malden, MA: Polity Press. 

ミクロの戦争――小さいもので思いのまま

ミクロからナノレベルの戦争のおそろしさは、おもに人工感染症にある。…多くは人間が新しくつくり出した病気やウイルスだが、既知の病原体を使うこともできる。…最も簡単な方法はポリオやチフスやインフルエンザのような既存のウイルスを使うことである。…ヒトゲノムマップ(インターネットで手に入る)と化学実験器具があれば医学生にもできる。(Paxman, Jeremy, and Robert Harris. A Higher Form of Killing., New York: Random House, 2011)  最悪なのは、人類を破滅させるつもりなどなくても、新しい致死性のウイルスができてしまうことである。(p.p.115-116)


バイオテクノロジーの善用はDNA操作による人体の改造である。(Shanks, Peter, Human Genetic Engineering: A Guide for Activists, Skeptics and The Very Perplexed, New York: Avalon, 2005) たとえばエンドルフィンの産生をうながす遺伝子のコピーを注射し、痛みを軽減して耐性を刺激する。…遺伝子挿入はさらに先へ進み、遺伝形質を種の異なる生きものに挿入する研究が進められている。この技術を使えば、人間の視力をたとえば猛禽のレベルにまで上げることができるかもしれない。皮膚に保護用の鱗を生やしたりワニのような固く頑丈な皮膚にしたりもできる。コウモリのような音波探知の遺伝コードを導入すれば、真っ暗な闇のなかでも自由に動きまわれる。このような技術が普通に使われるようになるまでにはまだ何年かかかるだろうが、理論と技術はすでに実証されている。(p.p.117)

非致死性兵器の警戒すべき例


視覚兵器

 今日では、一時的に目を見えなくするレーザーの開発に力が入れられているが、この兵器の問題は人によって光の刺激に対する反応が違い、視力の喪失が一時的ですまないケースがあることだ。…レーザーポインターが普及した現在、いたずらでレーザーを照射されたという報告が航空機のパイロットから多数寄せられており、愚か者がハイテク機器を使って悪ふざけすることから安全面の問題が浮上している。…相手が車両を運転していれば人や物に衝突してしまうかもしれず、それは[攻撃側の]意図した結果ではないだろう(副次的被害の低減という観点で好ましくない)。

…対人攻撃に使われる指向性エネルギー兵器は視覚を奪う効果が最も大きいが、ほかにも効果はいろいろある。ストロボ閃光は素因のある人に癲癇の発作を引き起こし、そうでない人にも頭痛や意思決定力の低下から無気力までさまざまな一時的機能停止を起こさせる。敵は疲労からしだいに神経過敏になり、さらには睡眠を妨害されるので士気を阻喪する。(p.p.94-95)

音響兵器

 音響兵器はさまざまな不快感をあたえる。その一つが音の「弾丸」を発射し、激しい苦痛で相手を無力化する高強度指向性音響効果(HIDA)である。神経ガスに似て、方向感覚の失調やめまい、吐き気、嘔吐、かゆみ、失神、頭痛などをもたらす。…高輝度ストロボ閃光と組み合わせれば癲癇のような症状が現れる。その効果は驚くべきものだ。

 音響兵器の大半は、暴動やデモのときに群衆を統御し解散させる目的で低周波を利用する。音は非常に低く、人間には聞こえない。ところがありとあらゆるかたちで肉体に苦痛を与える。(p.p.96-97)


悪臭兵器

…嗅覚を襲う兵器、悪臭弾(臭気剤)である。…心理作戦と併用する場合にはその文化で嫌われているものが使われ、腐敗臭を体にこびりつかせられれば、嘲笑されたりつまはじきにされたりする。臭いがあまりにひどくて — 皮膚に染み込むと、どんなに洗ってもとれない — 誰も近づかなくなる。

 イスラエルはすでに群衆の統制に「スカンク」という名称のシステムを使っている。…「腐った肉と洗わずに放っておいた靴下の臭いを混ぜて、下水から漂う臭気を足したような臭い」だという。(Davies, Wyre. "New Israeli Weapon Kicks up Stinks," BBC News, Jerusalem, October 2, 2008. Online, http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7646894.stm )  

ともあれ、スカンクは車に搭載した放水銃から噴霧され、群衆を追い散らす。しかも非常にしつこい臭いだ。皮膚につくと三日は落とせず、衣服についた場合はすっかり消えるまでに五年もかかることがある。(p.p.97-98)

焼夷兵器

 二〇一〇年に、アメリカ軍は群衆制御と特定の作戦にアクティブ・ディナイアル・システム(ADS)を導入した。…ADSでミリ波を皮膚に二秒間照射すると、約〇・〇四ミリメートルの深さまで浸透し、火で焼かれたように感じる。…この兵器のお披露目に要人や記者が招待され、多くが実際に体験してみた。我慢できた者はなく、みな跳び上がったり腕を振り上げたり、もっていた物を取り落としたりした。

電磁兵器

 電力供給網、発電設備、情報システムを麻痺させる目的で設計されたこの兵器は、強力な電磁エネルギーを瞬間的に放出し、電子機器に過剰な電流を流してショートさせるのだ。都市一つ分ほどの広域内の電気設備を破壊するのに使えるだろう。

 もう一つ開発中の指向性エネルギー兵器は、波動エネルギー弾(PEP)である。発射されたレーザーが人や物に接触するとプラズマが生成されて広がり、打たれた人は衝撃で倒れて意識を失い、後遺症として痛みや吐き気、めまいが残る。(p.p.100-101)