Thursday, April 17, 2014

仙波敏郎 『現職警官「裏金」告発』

Senba, Toshirō. Genshoku Keikan Uragane Naibu Kokuhatsu. Tōkyō: Kōdansha, 2009. Print

警察には闇の警察組織といわれる警備課、公安課があり、組織内の不穏分子――私のように組織の悪を批判する者や左翼的思想の警察官などを、あの手この手で監視する。そんな暇があるのなら、凶悪犯罪や未解決事件に取組むべきだ。そして市民を見殺しにしたり、冤罪に陥れたりする「警察による犯罪」を、本気で撲滅すべきである。(p.132)

監視、盗聴、尾行

職場だけでなく、自宅の電話や携帯電話もほとんど盗聴され、電子メールの内容も盗まれていた。・・(「Nシステム」や「ココセコム」というGPSシステムを)容疑者の監視に使うことは、プライバシーの侵害行為として使用規約で禁じられている。だが、私が車でどこかにでかけると、その周辺で私と接触した可能性のある人間のところへ警官がやってきて、「仙波と会ったか」と執拗に訊ねるようなことが何度もあった。これらのシステムによって私が監視されていた可能性はきわめて高い。定年退職後も、あるいは監視が続けられるかもしれない。(p.p.198-199)


告発一週間前の揺さぶり

・・毎月、家に帰る道を変えたが、必ず車がついてきた。あからさまな尾行で圧力をかけ、同時に、なにか私のアラをさがそうとしていたのだろう。県警はいよいよ私を潰しにかかってきたのだと感じた。(p.178)


拳銃ケース細工事件

(親友の死で)憔悴しきった私を見た県警の人間は、「仙波はわれわれをうつかもしれん」と、怖くなったのだろう。それで拳銃を取り上げようと。だが当然、私は拒否する。だから、「その場合にも銃を撃てないようにしておこう」と、(強力接着剤で)ケース(が開かないよう)に細工をしたのだと言う人がいる。もう一つは、そうやって私を怒らせ、暴言や暴力をふるうよう誘導したのではないか、と言う人もいる。(p.233)


陰湿な組織的いじめ

子供じみた「シカト」を彼ら(同僚の皆)が大真面目でくり返すのは、
「仙波と話したことはすべて文書にして報告せよ」と上司に命じられていたからだ。・・県警は、そうやって私を孤立させようとしたのだろう。もともとこの組織には陰湿なところがあるのだ。(p.195)


長男にまで及んだ圧力

県警が私の留守中に玄関先まで入ってきて、郵便物や届け物などを全部チェックしていることがわかった。(息子のための)差し入れの本も、調べにきた警官が持ち去っていたらしい。これは明らかに違法行為だ。しかも(本を差し入れた)その会社まで(わざわざ客が来ているときを狙って)警官がやってきて、「この会社は殺人犯を雇うのか」「調書を取らせろ」などと大声で言うようになったという。
(裏金告発について)新聞の投書欄(に匿名)で賛同した人のところへ、(息子の)事件の公判調書が送られたこともある。・・警察が調べれば簡単に住所が特定できる。インターネットの2ちゃんねるにも、息子を誹謗中傷する多くの書き込みがあった。それを見て告発を支持するのをやめた人もいるだろう。公判調書は県警しか流せないはずだ。2ちゃんねるの書き込みも、警察関係者しか知りえないようなことがリアルに書いてあった。県警は、私を潰そうと躍起になっていた。(p.199)


シロをクロに変える冤罪の構図

・・一度逮捕したら、その人間が完全にシロだとわかっても釈放せず、そのまま突っ走ることが少なくない。誤認逮捕ということになれば、裁判所に対しても検察庁に対しても、警察のメンツが立たなくなるので、シロをクロにもっていこうとする。これが冤罪が生まれる構図である。
・・三島署にいたとき、放火事件が何ヶ月も解決しないことがあった・・先輩は驚くべきことを口にした。
「無罪でもなんでもええんじゃ・・(既に狙いをつけた三人の中で)アリバイのない奴を引っ張ってきたらええんじゃが」
・・もっともアリバイがない人間をしょっぴいて犯人に仕立て上げる、これが昔からの警察のやり方だというのである。
「先輩、それはいかんでしょうが。でっちあげの冤罪でしょうが」
「おまえもアオいのう」
この人はなんのために警官をしているのだろう― 私は愕然とするばかりだった。(p.125)


全員を共犯にする巧妙な手口

・・裏金づくりは、すべての警察関係者を否応なく巻き込んで行なわれてきた。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という、全員共犯の論理が罷り通ってきたのだ。(p.84)


悪の連鎖は断ち切れるのか

私の好きな言葉に、「源清ければ、流れ清し」がある。トップが清廉潔白なら、下もきれいになる。トップが腐っているのに、下の者がまっとうな仕事などできるはずがない不祥事を起こす警官は、みな、腹の中でこう思っている。
「たしかに俺は悪いことをした。でも、俺よりもっと悪い奴が上にいるじゃないか」
だから不祥事を起こしても反省しない。警察官による窃盗事件や性犯罪などが後を絶たないのは、そのためだ。(p.134)


若き警察官たちへ

(2007年の愛媛県警察学校の入学式の日に)・・新入生の一人が立ち上がり、
「愛媛県警にはまだ裏金があるのですか?」
と質問したというのである。校長以下、教官全員が凍りつき、誰一人として「ない」と答えられなかったそうだ。・・やがて彼のようなまっとうな警官の時代が来る。「長いものに巻かれろ」などと考えず、警察官の原点を忘れずに仕事に向き合ってほしいと心から願っている。(p.225)

Sunday, April 13, 2014

荻野富士夫 『特高警察』

Ogino, Fujio. Tokkō Keisatsu. Tōkyō: Iwanami Shoten, 2012. Print.


Ⅷ.特高警察の「解体」から「継承」へ
(特高が存在する法的根拠であった)治安警察法の廃止をめぐって・・内務省では(GHQにより既に廃止を指示されていた)治安維持法などの廃止に(治安警察法を)含めず、存続を決め込んだ。・・しかし・・このことを知ったGHQから廃止を指示されると、すぐ従うというみっともなさを露呈した。
そのうえ(特高職員の)罷免はいかにも不徹底なものだった。・・特高経験長期にわたる者も不問にされた。(p.215)
(一九)四六年五月一七日の『読売新聞』コラムには、「特高警察に属していたものが、名称だけは変わったが本質的には特高と変わらぬ仕事をやっている機構の中に潜り込んでいるというのが日本の警察の実情である」とある。(p.221)

新特高「公安警察」
一九四六年になるとGHQ参謀第二部(G)と管下の対敵諜報部隊(CIC)を後ろ盾に、「公安警察」の整備と強化が急速に進んだ。・・六月一二日には(ポツダム)勅令第三一一号「連合国占領軍の占領目的に有害な行為にたいする処罰等に関する勅令」が制定され、以後、絶大な威力を発揮していく。(p.p.224-225)
警察・公安委員会についてのアンケート調査の返信用封筒の切手に印がつけられ、「匿名投書とは、ていのいい警察用語であって、(印の)何番はダレ(が出した)というように、はっきりわかるカラクリがかくされてあった」として「この不愉快な、否、悪らつな手口は、特高精神の発露だ」と断じている(『朝日新聞』一九四八年一一月二五日)(p.226)

こうした状況の下、1950年前後には、罷免・「公職追放」されていた旧特高警察官の多くが「公安警察」部門などに復帰し、かつての経験・ノウハウを活かしていく。・・加えて、戦前の「思想検察」を継承する「公安検察」の設置(五一年一二月)、治安維持法の再来といえる破壊活動防止法の成立(五二年七月)・・などを指標にとると、一九五〇年代半ばまでに戦後治安体制は確立したといえる。(p.230)