池谷裕二 監修., Ikegaya Yūji kanshū., & Ikegaya, Y. (2016). 脳と心のしくみ : 最新科学が解き明かす! = Mechanism of brain and mind (Bijuaruban). Shinsei Shuppansha.
心を読むマインドリーディング
脳内の信号を解読することで心の状態を読み解く「マインドリーディング」の研究である。…機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などを使い、脳内の電気信号を解析することで、その人が何の文字や図形を見ているかを脳の外から知ることにはある程度成功している。
…見ている画像と、脳の活動の間の法則性(パターン認識アルゴリズム)を見つける。このアルゴリズムを使えば、脳内の活動を調べるだけで、どんな画像を見たのかがわかるのだ。
今後アルゴリズムの精度が増せば、さらに複雑な画像にも対応できるだろう。また、同様の手法を聴覚野など、ほかの機能を持つ脳の部位に応用することで、さらなる広がりが期待できる。
この技術が進むと、脳の外から心がのぞけることになる。それは困るという人がほとんどだろうが、救われる人もいる。
カナダでは、自動車事故で脳に大きなダメージを負って12年間、重度の昏睡状態だった男性の脳の活動をfMRIで測定しながらコミュニケーションをとる実験が行われた。男性は、…質問に対して脳の活動状態が変化し、意思を持ってやりとりできることがわかった。(p.p.184-185)
脳研究の最新技術で夢をのぞく
まず、脳波計を装着した実験参加者にfMRI装置内で実際に睡眠をとってもらい、睡眠中の脳の活動状態を計測する。そして…夢の内容と、その夢を見た時に活動していた脳内の領域に関するデータを大量に蓄積する。・・・準備が整ったところで、改めて実験参加者にfMRI装置に入ってもらい、睡眠中の脳の活動データを、準備したアルゴリズムを使って解析しながら、実験参加者から夢の内容を聞き、夢に登場したものを当てることに成功した。(p.p.186-187)
ブレイン・マシン・インターフェース
脳の信号をキャッチして解析する技術の開発など、脳研究の進歩を日常の生活に生かす研究も進んでいる。その一つがブレイン・マシン・インターフェース(BMI)だ。
BMIは、脳の活動信号を計測し、その信号を解析することで、外部の機械やコンピュータなどを直接制御する技術をいう。
手足が動かないなど、運動機能に障害を持つ患者の脳から出た運動指令や運動の意図などを読み取り、義手や車いすなどを操作する試みはすでに世界各地で行われている。言わば、念じるだけで、さまざまな機械を動かせる技術だ。
…BMIの方法は侵襲型と非侵襲型の2種類に分けられる。
侵襲型は、脳に直接電極を埋め込む方法で、神経細胞から直接電気信号を取り出せるので信号の制度は高い。しかし、手術が必要なため体への負担が大きい。また、狭い範囲の信号しか取り出せないという欠点もある。
非侵襲型は、頭の表面にセンサーを着け、外から活動情報を得る方法だ。この方法は、体に負担をかけず、手軽に脳全体の情報を得ることができる。ただし、頭蓋骨を隔てて情報を得るために、侵襲型より精度が低くなる。(p.p.188-189)
脳をネットワークでつなぐ
近年行われたある実験では、サルの脳に電極を埋め込み、仮想アーム(コンピューターのバーチャルリアリティとして構成された物体を触ったり動かしたりできる仮想の腕)を操作させ、触覚などを惹起させたり、物体を動かしたりすることに成功している。(p.196)
インターネットを介し、遠く離れたラットの脳と脳を直接つなぐ実験も行われている。…ブラジルのネズミにレバーを押すと飲み水が出ることを学習させる。この操作をしている信号を、脳に埋め込んだ電極から取り出し、インターネットを通じ北米のネズミに送る。すると自らは学習していない北米のネズミも同様に、レバーを押して水を飲んだというものだ。(p.197)
進化する脳研究を追いかける倫理
BMIを使えば、人間の脳にある情報を読み取ったり、外からインプットしたりすることもできる。これは、使い方によっては戦争やテロ、犯罪などに利用されるおそれがあることを意味する。
ほかにも、現在の脳研究には、脳のイメージング画像から政治的な思考を調べるニューロポリティクスや、経済的な行動を予測するニューロエコノミクスといった分野もある。さらに、近い将来、知能を薬物で増強する技術が開発されるかもしれない…。
…そこで生まれたのが、ニューロエシックスという新たな学問だ。日本語にすると、脳神経倫理学または神経倫理学となる。脳研究にかかわる学会をはじめ、各種研究機関ではニューロエシックスの取り組みをすでに開始しており、セミナーやシンポジウムなどを実施。先進的な脳研究を悪用されないためのさまざまな倫理規定を設けている。(p.204)