Wednesday, July 7, 2021

中野剛志, 中野信子, 適菜収 『脳・戦争・ナショナリズム~近代的人間観の超克』

 Nakano, T., Nakano, N., & Tekina, O. (2016). Nō, sensō, nashonarizumu: Kindaiteki ningenkan no chōkoku.


サイコパスは擬態する

適菜:ロンドン大学神経生物学研究所の石津智大研究員のチームが、絵画や音楽で「美しい」と感じたとき、脳の一部分の血流量が増加することを解明したそうです。この美しいか醜いかを判断する領域と、倫理的に正しいか邪悪かを判断する領域は同じなのですか?

信子:そうなんです。私たちは、倫理的に正しい行動を「美しい」と言ったり、自分勝手な行動を「醜い」と言ったりしますね。実際、美醜と正邪を判断しているのは、脳の同じ領域の反応にもとづいているわけです。これを言うとフェミニストに代表される人々が嫌がりそうなので、あまり言わないようにしていたのですが。

剛志:たしかに美人のほうが詐欺師としては優秀だったりもしますね。それは錯覚を利用しているのだろうか?

信子:そうですね。けれど、逆に胡散臭さを感じたりもします。「あの人、爽やかすぎる」なんて。

剛志:なかなか微妙ですね。

信子:ただ非常に優秀な詐欺師というのは、そんな胡散臭ささえ感じさせない。正しさと美しさの錯覚を利用して生き延びる戦略に長けているんですね。つまり、美しさや正義を巧みに擬態する能力が高いわけで、そんな個体のことをサイコパスと呼びます。

サイコパスというとすぐ連続殺人の凶悪犯を思い浮かべがちですけど、ちょっと定義が違いますね。二十五人に一人という高確率で存在する、と主張する研究者もいます。ともあれ、彼らの擬態戦略が有効だからこそ、その遺伝子も生き残っているわけです。

適菜:私も以前サイコパスについて調べたのですが、たしかにその多くは社会性をもっていて世の中に紛れ込んでいる。

犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは、サイコパスのほとんどが男性で、政治家、弁護士、レイプ犯、詐欺師などに多いと指摘しています。彼らはウソをついて社会を破壊していきますが、魅力的に見えることもあるそうです。

(p.p.146-148)

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剛志:よく「アメリカという国は多様性があっていい」とかいう話は嘘っぱちです。アメリカほど規格の統一や標準化が好きな国はありません。

信子:いわゆるグローバルスタンダードも米国発ですしね。(p.112)


剛志:リントホルムとホールの論文には、ヨーロッパ人がよくアメリカについて言うこんなジョークが書いてある。

 「アメリカ人は選択の自由を尊重する。ただし、アメリカのやり方を選択したときだけだ」(p.113)


Monday, March 1, 2021

Begley, S., 『脳を変える心』

ダライ・ラマと脳学者たちによる心と脳についての対話

Begley, S., & Mogi, K. (2010). Nō o kaeru kokoro: Darai rama to nō gakushatachi ni yoru kokoro to nō ni tsuite no taiwa. Tōkyō: Bajiriko.

The original title: Begley, S. (2008). Train your mind, change your brain: How a new science reveals our extraordinary potential to transform ourselves.

製薬会社からは歓迎されなかったが、神経科学者ヘレン・メイバーグは二〇〇二年に、鬱病発症者の脳に対する効果は抗鬱薬でも偽薬でも同じであると示した。メイバーグがテキサス大学健康科学センター・サンアントニオ校の研究者とともにおこなった実験で、鬱病が治った患者に用いられた治療薬は、広く処方されているパキシルなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であっても、患者が坑鬱薬だと思い込まされているだけで同等の効能をもたない偽薬であっても、脳の活動が同じように変化したことを確認した。fMRI画像によれば、どちらの場合も活動は大脳皮質で増加し、大脳辺縁系で減少していた。(p.p.219-220)