佐渡, 龍己, & Sado, R. (2005). 対テロリズム戦略 : バグダッドでの実戦体験. かや書房.
テロリストが攻撃しようとするのは、銃、砲、戦車などの物質ではなく、人の心である。テロリストは、人々に恐怖を与えることにより、社会の秩序を破壊し、事態の鍵を握る人物の心に直接あるいは間接的に影響を与えようとする。このための手段は、必ずしも物理的暴力を使用する必要はなく、精神的暴力を手段とする。(p.40)
テロリズムの分析基本モデル
①テロリズムの基本モデル1
A(いわゆるテロリスト)が、ある事項に非常な恐怖感を抱く。その原因となるB(為政者)を脅す。Bは追い払われるか、またはその事項をやめる。この方式に相当するテロリズムが、フランス革命のテロリズムである。…
②テロリズムの基本モデル2
Aが、ある事項に非常な恐怖感を抱く。その原因となっているのはBであるがBを直接的に脅すのではなく、C(民衆)を脅し(恐怖を与える)その民衆をしてBにその事項をやめさせる。
テロリズムの分析応用モデル
①応用モデル2-2
基本モデル2のC(民衆)の要素に換えて、国際世論に働きかけるテロリズムがある。
②応用モデル2-3
Cの民衆の要素に換えて、第三国に置き換えた場合が、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)およびトゥバクアマル革命(MRTA)のテロリズムである。この場合攻撃目標は第三国の市民となる。期待する効果は第三国の圧力である。…第三国の外国人を人質にして、第三国の圧力で敵に対して彼らの要求を強要している。
③応用モデル3
AがBを攻撃し、Bに過剰な報復をさせる。さらに支配者側が理性を失い、民衆を殺害させるように工作する。この双方の結果を大きく世界へ宣伝し国際世論へ訴える。国際世論に訴えてその国際世論の圧力でBである政府あるいは支配者を追い払うあるいはある政策をやめさせる。(p.p.44-49)
今回の米中枢同時テロにおいて、果たして米国は一方的な被害者であろうか、と問い直してみる必要がある。正義は米国側にあり、米国にはまったく罪はないのであろうか。すべての悪はテロリスト側にあるのであろうか。
…具体的には次の四つの事項がイスラムの人々を苦しめてきた。一つは米国のイスラエル支援である。この結果、イスラエルとパレスチナとの戦争および紛争によって多くのパレスチナ人が家を追われ、殺害された。二つめは、米軍の聖地サウジアラビア駐留である。三つめは湾岸戦争におけるイラク市民の殺害、四つめは米国側に都合の良いように他国政権を操作する米国の政策である。・・・米国は直接的には意図しなかったが、結果的にはイスラエルの人々を苦しめ、間接的に殺害した。すなわち最初に殺人を犯していたのは米国となる。これに対してイスラム過激派テロリストは米国に対して復讐を企てた。その実行が米中枢同時テロである。
…この視点に立つと、米国は、まったくの被害者ではなく加害者でもある、という見方が成り立つ。・・・他方、一般的にいわれるイスラム過激派テロリストが完全なる犯罪者であるという批判は必ずしも当を得ているとはいえない。これは一種の仇討ちという見方が成り立つ。(p.p.176-177)
佐渡龍己『対テロリズム戦略』
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