Sunday, January 19, 2025

吉田敏浩 『「日米合同委員会」の研究』

 Yoshida, T. (2016). 「日米合同委員会」の研究 : 謎の権力構造の正体に迫る (Dai 1-han). 創元社.


日米合同委員会という、名前だけは知られていても、その実態は謎につつまれた、日本のエリート官僚と在日米軍の高級軍人からなる組織(日本側代表は外務省北米局長、アメリカ側代表は在日米軍司令部副司令官)。その組織が、何十年にもわたって隔週の木曜日ごとに都心の米軍施設や外務省の密室で、日米地位協定の解釈や運用について人知れず協議を重ね、米軍の特権を維持するために数知れぬ秘密の合意=密約を生みだしている。しかもそれらの密約は、日本国憲法にもとづく日本の国内法(憲法体系)を無視して、米軍に治外法権に等しい特権をあたえている。
たとえば「横田空域」という、首都圏を中心に一都九県の上空をすっぽりとおおう広大な空域があります。そこは日本の領空なのに、日本の飛行機が自由に飛べず、米軍が戦闘機の訓練飛行や輸送機の発着など独占的に使用しています。
…つまり事実上、日本の空の主権が米軍によって奪われている。しかもそのことに国内法上の根拠がない。日米地位協定にも法的根拠が明記されていない。そのような独立国としてあるまじき状態が、独立回復後、六〇年以上も続いているのです。(p.p.1-2)

…ほかにもあります。たとえば、米軍関係者(軍人・軍属・それらの家族)の犯罪で、「日本にとっていちじるしく重要な事件以外は裁判権を行使しない」という「裁判権放棄密約」や、米軍人・軍属の被疑者の身柄をできるかぎり日本側が拘束せず、米軍側に引き渡すという「身柄引き渡し密約」などです。
これらの密約は米軍関係者を特別扱いする甘い事件処理を生みだし、米軍関係者の犯罪の起訴率がきわめて低いという現実をもたらしています。そして、この程度なら罪に問われることはないという意識を米軍関係者の間にはびこらせ、後を絶たない米兵犯罪の温床になっているのです。(p.p.2-3)

こうした日米合同委員会の合意文書や議事録はすべて原則として非公開です。国民の代表である国会議員に対しても秘密にされ、主権者である国民・市民の目からも隠されています。ごく限られた高級官僚たちが在日米軍高官らと密室で取り決めた秘密の合意(密約)が、日本の国内法(憲法体系)を侵食し、日本の主権を侵害しているのです。合意がいったいいくつあるのかさえわかりません。日米合同委員会の文書・記録として処理すれば、すべては闇の中に封印できる仕掛けになっているのです。
…日米合同委員会では、協議といってもアメリカ側の米軍人が強硬に主張したことは、日本側の官僚たちによって、ほぼすべて受け入れられているのが実態…米軍上層部から見れば、日米合同委員会は日本における米軍の特権を維持するためのリモコン装置のようなものといっていいでしょう。(p.4)


米軍が日米合同委員会の密室協議の仕組みを利用して、事実上の治外法権・特権を日本政府に認めさせるという一種の「権力構造」がつくられ、今日まで続いている。(p. 286)