シュタージとは政府が国を掌握するための手段として利用していた国内治安機関だ。その任務は全国民に関するあらゆることを把握するというもので、そのためなら手段は選ばなかった。個人に対して誰が家を訪ねてきたか、誰に電話をかけたか、配偶者が異性と関係を持っているかどうかまで把握していたという。東ドイツ中に張り巡らされていた官僚制度だ。公然と、あるいは内密に、自分の仲間や友人のことをシュタージに報告している者が、全ての学校、全ての工場、全てのアパート、全てのパブに存在した。
(p.15)
(シュタージ関係者)
「我々は効率を最大限に求めていました。最盛期には
教会のリーダーの65%が我々の情報提供者だったことは
あまり知られていない事実です。残りの35%もいずれ
にせよ我々の監視下にありました。
(p.261)
(シュタージ)「東ドイツの頃はアパートのドアにだって
鍵をかける必要はなかった。」
(著者)確かに必要なかったのだろう。
いずれにしても家の中は覗かれていたのだ。
(p.114)
「シュタージが二十年にわたってリビングでの風景を監視しつづけていたある家族のファイルを見た時、わたしは自問しました。こんなことまで知りたがるなんて一体どんな連中だったのだろうと」(p.351)
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「建築現場で働いていた頃、わたしは怖かった。あまりに多くのことを知っていました。・・・運転中とか作業中に“事故”に遭うかもしれないし、そうじゃなくても他の方法で始末されると思いました。」「あそこに部屋があって一日中交替で務めていたのです。」と暗い屋根裏の窓を指す。 「この辺りで何が起きようと、あそこからなら全てを見張ることができました・・・誰もそんなことになっているとは知りませんでした。給油所の従業員は密告者でした。しかし彼らでさえ、あの上の部屋で何が行われているかまでは知らされていませんでした。」
(本文に紹介されている実例)
・少なくとも二人の人間に民間人の格好をさせて配置
・ポケットに録音機
・車のヘッドライトに隠しカメラ
・車中で行われている会話を拾える盗聴器
・給油所にも隠しカメラ
「・・・・バレることはまずありませんでした。」
(p.209)
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<監視の際のサイン>
1.気をつけよ、被験者(ターゲット)接近中
---- 手かハンカチで鼻に触れる
2.被験者移動中、遠ざかっている、もしくは追い越そうとしている
---- 手を髪で撫でる、あるいは帽子を軽く上げる
3.被験者は立ち止まっている
---- 片手を背中か腹に当てる
4.気づかれる前に監視を切り上げたい
---- しゃがんで靴の紐を結びなおす
5.被験者が引き返す
---- 両手を背中か腹に当てる
6.チームリーダーか他に監視中のエージェントと連絡をとりたい
---- ブリーフケースかそれに代わる持ち物の中身を調べる
・・・・ 非常に不愉快な偵察者のための振り付け。・・・・女性用のハンドバッグには飾りとして留められた花柄模様に隠しマイクが仕込まれていた。アパートの壁に埋め込まれていた盗聴器や西側に宛てられたまま届けられることのなかった郵便物も山のようにあった。 (p.17)
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「情報提供者にはどういう資質を求めていたのですか?」
・・・「正直で誠実で信頼に足る人物であるということです・・・もちろん省に対してということです。」と彼の訂正が入る。「他の人間を裏切ろうが何をしようが関係ありません。」
(p.265)
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「情報提供者にとってはどういう旨味があったのでしょう?」
どれくらいの金額が支払われていたか興味があった。
「哀れなくらいでしたね …… 」
「そういう条件でどうして彼らは情報提供者となったのでしょうか?」
「・・・・そうすることで自分が何者かであると思えたんじゃないでしょうか・・・・自分は他の人間とは違うんだと思えたのではないでしょうか。」
---- 裏切りそのものが報酬だったのだ ---- 誰かより上にいる自分を感じられるという小さくて根深い人間の満足感。愛人のようなこの心理を東ドイツ政権は利用していたのだ。
(p.265)
(ある者は)浮気を「信頼していた親友」に相談。その男は職場に報告。・・・・シュタージは自分たち側の人間が組織に対して秘密を持っているという状態に我慢がならなかったようだ。
(p.114)
「東ドイツが犯した過ちは国民に一つの立場を選択するよう迫ったこと・・・ 味方になるか、それとも敵なのか、ということです。」
「情報提供者になれと言い寄られた時に、それを他の人に話したり、あるいはきっぱり断った場合は?」
「どうにもならなかったんです。・・・しかし当時はどうにもならないと知りうる人などいませんでした。だからほとんどの場合、拒否できなかったのです。」
(p.354)
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元シュタージ:「国民を監視するためなら、どんな手段を使うことも許されていたのです・・・」
著者:「では、ここでいう『統制』の対象となったのはどういう人たちなんですか?」
「敵です」
「なるほど、どうやって敵を見わけるのですか?」
「そうですね。誰かが調査対象となったら、それは敵対者として活動していると疑われたということなのです。」
まさに独裁者の論理だ。我々はあなたのことを調査しています。ですからあなたは我々の敵です、というわけだ。
(p.263)
政府も晩年には国民に対する逮捕、監禁、拷問といった直接的な行動をほぼ全面的に控えている。代わりに国民を黙らせる別の手段、国際人権団体のアムネスティが記録困難と判断するような手段を選択している。
<<「抵抗する」人々に対して徹底的にダメージを与える方法について諜報員たちに出されていた指示>>
“心(精神)を殺す・・・、社会的、個人的、仕事の面において、健康面、政治に関していずれの点において葛藤を抱いたとしても解消できない状況を作り上げる・・・、恐怖心を起こさせる・・・、失望させる・・・、才能や能力を制限する・・・、行動能力を低減する・・・、以上の目的をもって、意見の相違や矛盾を利用する。”
“匿名の手紙などを利用して特定の人物に関する噂を広める・・・、事実を混乱させることで相手にとって不名誉になるような状況を作りあげる・・・、相手がヒステリックになったり落ち込んだりするよう仕向ける。” (p.379)
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(イタリア人ボーイフレンドとつきあっていたという理由だけで
政府による集団ストーカー犯罪の被害を受けたユリア)
「わたしの頃の東ドイツで起こり得る典型的な出来事は、わたしたちのキャリアが始まる前すでに破壊されているということで、それはわたしの身にもすでに起きていたことなの!それにイタリア人ボーイフレンドとも別れたっていうのに ---- それでも連中はまだ奪い足りないのよ!」 (p.144)
「出国の申請書を出した後は身辺がホントにひどくなったの」「道を歩くだけで嫌がらせをしてくるし --- ほとんど毎回呼び止められてたわ。車に乗っても頻繁に後を付けられて連中はわたしの人生が不愉快なものになればいいって本気で思っていたのよ・・・」
(p.366)
「当時は他のことに文句ばっかり言ってたから ---- 進学できないとか就職できないとか。でもこうやって振り返ってみるとわたしが何に一番参ってたかっていうと完璧に監視されてたってことなのよね。人間がどこまで自分の限界を超えられるかって、わたしはわかるの---- プライベートな領域が全て侵されたらおしまいなの。そしてそれを思い知るっていうのはたまらないことなの」 (p.152)
「わたしはこうした監視を現実として受け止めて暮らしてきたわけだし、好きではなかったけど、ここは独裁(ファシズム)国家なんだ、だからこういうもんなんだって思うようにしてたわ。・・・・こうしたことを西側の人たちが考えるみたいに真剣にとらえてたら、わたしたちはみんな自殺してるわよ、きっと」
ユリアはそう言って笑い飛ばすが、わたしは胸の内の穏やかでない感情に気がついていた。
(p.134)
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(別の被害者)クラウスは聞きなれない癌が原因で若くして死んだという。
・・・シュタージは(標的にされた人間を追跡しやすくするため)放射能を(標的の体に浴びせて)使っていた。
「シュタージの連中ももう十分罰せられただろうしな。」「どういうこと?」
「ん?もし連中にも良心みたいなものがちょっとでもあればってことさ」(p.255)
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「国家社会主義による独裁は底知れぬ苦痛、苦難、その他諸々の原因となりました。どんな補償が試みられたとしても真の意味で心に負った傷が癒されることはないのです。」
(p.160)
<元シュタージ局員たちの秘密結社的存在>
・自分たちの側から見た歴史を書いて発表
・公的給与金の受給を求めて活動
・裁判となった場合に互いを弁護
<自分たちの正体を暴く恐れのある人たちに対する嫌がらせ>
・硫酸による襲撃を予告されたTV出演者
・チクタクと音のする小包を玄関先に配達
・夫が注文したわけでもないのにポルノグッズを受けとらされる女性
・トラック一杯の仔犬が運ばれ受け取りを要求される
・車のブレーキに細工。事故に見せかけた事件
・作家の子が連れ去られる
(p.112)
ミールケの演説:「これだけは覚えておきたまえ。あなたたちが持っている中で何よりも大切なのは権力です!どんな犠牲を払ってでもその権力にしがみついているのです!」
(p.310)
ミールケはあまりに完璧すぎる組織を作り上げてしまったために、その運営能力などを様々な観点から考慮して、どこかで誰かが自分のことも監視していたんじゃないかと不安になった。(p.335)
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「最終的にシュタージはホントに多くの情報を持っていました・・・・情報が多すぎたために、みんな敵だと思うようになっていたのだと思います。シュタージの監視下になかった者はいません。誰が敵で、誰が味方か、あるいはみんな口を閉ざしているだけなのか、シュタージには分かっていなかったと思います。」
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ミールケが死んだ。新聞には「最も嫌悪された男の死」とあった・・・・「月曜日に骨壷が埋葬され火曜日には何者かによって掘り起こされたんです!(加害者側のシュニッツラー氏)」
ミールケの墓を冒涜したのはおそらく西の人間ではないだろう。彼の声を聞いていると憤ってはいても、その奥に恐怖心をひた隠しにしているのが感じとれる。(p.336)
(元プロパガンディストに聞く)
「あなたの番組は西側のメディアの嘘を暴くことが主な狙いでした。自国での成功プロパガンダの嘘に気づいた時、同じことをしているということに疚しさのようなものは感じませんでしたか?」
「感じなかったね・・・・」
自分が矛盾するということがあり得ないほど、真実が意味をなさない権力(正直者がバカを見る世の中)に慣れ親しんでいる証拠だろう。
(p.182)
(ある被害者の声)
「この社会は嘘で塗り固められていたんだよ
--- 嘘の上に嘘を上塗りし続けたんだ」
まさに裸の王様だ!
(p.208)
(シュタージがシュレッダーにかけた個人情報その他のファイルをつなぎ合わせる作業員)
「人々が自分の身に起きたことを知って少しでも安堵するところがあるのだと知ることが我々の満足につながる・・・どうして自分たちが大学にいられなくなったのか、突然姿を消した叔父の身に何が起こっていたのか、被害に遭った人たちに彼らの半生に関する何かしらを知らせてあげることができるのです。」