Thursday, March 9, 2017

Davis,『パブロフの犬: 実験でたどる心理学の歴史』

Hart-Davis, A., & Yamazaki, M. (2016). Paburofu no inu: Jikken de tadoru shinrigaku no rekishi. Sogensha.

アルバート坊や、どうしたの?

人間を対象とした古典的条件づけの研究

 ワトソンらは、動物、とくに白いラットに対する恐怖感を条件づけできるかの実験を開始します。
・・・アルバートにラットを見せて鉄の棒を叩くというプロセスをさらに3回繰り返しました。その後、アルバートはラットを見ただけでしくしく泣くようになります。


・・・アルバートのラットへの恐怖感が毛皮を持つ他の動物にまで拡大し、たとえばウサギを見ただけで怖がるのかを確認したいと考えます。ウサギを見たアルバートは、ウサギからできるだけ遠ざかり泣き出しました。犬を見たときは、ウサギのときほど取り乱しませんでしたが、再び泣き出します。アルバートは綿を丸めたものさえ嫌がりました。


 この実験は当時であっても物議をかもす実験と見なされ、現在に至るまで結論の正当性と倫理面の両方で激しい批判の対象になってきました。・・また当時、アルバートの母親が実験に正式に同意していたか疑問が残ります。(p.p.28-30)

どこまでやるの?

ミルグラム実験

ミルグラムは、ボランティアの被験者がどこまで権威に服従するかを調べることにしました。ミルグラムはC・P・スノーが1961年に述べた「反乱の名のもとに行われる犯罪よりもひどい犯罪が、服従の名のもとに行われてきた」という言葉に触発されました。またミルグラムは、第二次世界大戦中とそれ以前に、数百万人の罪なき人々が、命令によって強制収容所のガス室で虐殺されたこともよく知っていました。(p.78)

[生徒役の人間に電流を流すよう命令された40人の被験者のうち]300ボルト以下で実験を拒否した「教師」[の役割をさせられた被験者]」はおらず、少なくとも26人の「教師」が、[致死量だと教えられている]最大450ボルトに達するまで実験を続けたのです。(p.80)

善人は悪人になれるのか?

状況が行動に与える影響とスタンフォード監獄実験

模擬監獄を作る
囚人がトイレに行きたい場合は、看守から許可を受け、目隠しをされて廊下を歩かなければなりません。部屋は盗聴されており、ビデオ撮影用の穴も設けられていました。

屈辱
・・ジンバルドーは、[現実の刑務所]同様の屈辱感を与える方法を考えたのです。・・ストッキングのキャップはその代用でした。鎖を足首に着けたのは、抑圧的な環境にいることを思い知らせると同時に、夜間の睡眠を少しでも妨げるためです。

囚人の反抗
 看守たちは刑務所内のコントロールを取り戻すため、心理的な戦いを挑みます。他の囚人が見ている前で、犯行に最も消極的だった3人の囚人をベッドのある部屋に移し、上等な食事を与えたのです。これ[Divide & Conquer]により他の囚人たちのフラストレーションと怒りは看守ではなく同じ囚人に向くようになりました。 ・・日が経つにつれ、看守は次第に残酷でサディスティックになり、特に夜間の勤務で、囚人以外に目撃者がいないと見なすと、そのような傾向が強く出ました。


本当に自分をコントロールできているのか?

[実験結果から]脳は、被験者が[手首を動かす]行為を行おうと「決定する」よりも、およそ3分の1秒先行して活動を始めていることになります。

「・・・この推測が正しいとすれば、人間が自分の意志通りに行動を開始し、自発的行為のすべてをコントロールしている可能性が減じられる・・」(研究者・リベット他)

リベットは1985年に、さらなる実験結果を報告します。この実験では被験者に、行為をしようと決意した後で、その行為を中止してもらいました・・被験者は、行為を中止するだけの時間的余裕は持っており、そのため行為を中止できたのです。

「・・この考察では、無意識のうちに開始された行為の最終段階で自制心が用いられていると考えられる。・・モーセの十戒に代表される倫理規定の多くは、しなさいと指示するものではなく、してはならないという禁止の規定なのである」(同上)

精神科医はあなたが正常かどうかを見極められるのか?

ローゼンハンの実験と「狂気の場で正常であることについて」

 ローゼンハンは8人の完全に正気な協力者を勧誘し、アメリカ合衆国各地の精神病院を受診してもらったのです。
・・病院に伝えた[虚偽の]症状は、声が聞こえるということだけでした。・・入院できるか心配されていましたが、偽患者全員に直ちに入院許可が下りました。


・・偽患者は正気であることを露呈していましたが、嘘を察知されることはありませんでした。1人は躁うつ病だと診断され、残りの偽患者は統合失調症だと診断されています。
偽患者はスタッフには気づかれなかったものの、他の患者には見抜かれていました。・・他の患者から「あんたは狂ってないね。ジャーナリストか教授だろう。病院を検査しているわけだ」といった声をかけられています。


「入院期間中に偽患者が正気だと[医者は]見抜けなかったということは、医師には・・患者を健康だと取り違えるよりも、健康な人を病気だと誤診しやすいという傾向があると思われる(ローゼンハン)」[註:ただしこの実験後、今度は本物の患者を送り込む実験をした結果、医師は患者を健康だとする誤診をしたため、結局、医師は正確に精神病を診断できないことがあきらかになっている]

「『統合失調症』『躁うつ病』『狂気』というレッテルを患者に貼り、これらの言葉によって本質を理解したかのように装い続けている。実際には、診断が役に立たず信頼できない場合が多いことは古くから認識されてきたにもかかわらず、その診断を使い続けているのである。今、我々は正気の中から狂気を見分けるのが不可能だと思い知ったのである」(同上)(p.p.113-115)

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