Thursday, May 1, 2014

山本節子 『大量監視社会』

Yamamoto, Setsuko. Masu Sābeiransu Shakai: Dare Ga Jōhō O Tsukasadoru No Ka = Mass Surveillance Unlimited. Tōkyō: Tsukiji Shokan, 2008. Print.


大量監視(マス・サーベイランス)社会 : 誰が情報を司るのか = Mass surveillance unlimited”

変化した監視の「方向」

1.外から内へ:・・アメリカでは9・11以来、国民に向け(監視が)始められた(NSAの大規模盗聴作戦―ザ・プログラム)。
2.特定の人間から一般人へ:・・今や不特定多数の「大衆」をターゲットとするようになっている(クリントンの秘密指令―99年大統領決定指令)。
3.部分から全面へ:・・今や、政府が民間企業の膨大なデータ倉庫をこじあけ、そこに蓄積されたあらゆる情報をひとつにとりまとめ、「データ共有」がはかられている。
4.少数から多数へ:・・監視装置が限られた場所から、街全体、公共空間全体に広がった。・・新システムを用いることのできる人や組織は、誰でも監視が可能になった(情報の商品化)。
5.マンパワーから最先端システムへ:・・「電子の目」を生かした自動監視システムが採用されている。・・電話やパソコン通信、ネットサーフなど、ありとあらゆる通信を傍受できる能力があるといわれている(FBIのカーニボー、テンペスト→エシュロン)。
6.非合法から合法へ、隠然から公然へ:非合法だった政府のスパイ活動を合法化し、情報傍受を公然と行なうようになっている(エシュロン、CAPPSⅡ)。
7.「軍事」と「民間」の統合へ:アメリカでは「情報戦」を、将来の生き残りをかけた「心理作戦」と位置づけ、イラクの軍事作戦などですでに実行に移している。
8.「聖域」から「利用」へ:・・プライバシーが死後になりつつある。個人情報を含むすべての「情報」は、社会発展のための欠かせないファクターとして、「利用」が最優先されるようになった(アメリカ・愛国者法、アメリカ・スパイ法)
(p.p.131-133)

「公衆外交」といえば1953年に設立され、1979年に国務省に統合された米国情報庁(USIA:United States Information Agency)が有名だ。USIAの任務は、海外の一般市民(公衆)に直接働きかけて、自国に有利・友好的な世論を形成することにあった。いずれも「公衆」= publicという名称を含みながら、公衆に知らされていないのは、いかにも機密国家・アメリカらしい・・・その業務の目的は、敵対的な国の反米プロパガンダを破壊し、「海外の公衆に影響を与えること」によって、アメリカの外交方針を受け入れさせることである。そのためにIPIは科学、教育、文化など学術交流や、留学生の交換、市民同士の交流などあらゆるルートを使って、外国政府や機関、団体、個人に影響を与える―世論操作[する]―ことを目的にしている。世論を構成する主体として、一般市民は当然、この指令の重要なターゲットである。(p.150)

           Reference: History Channel History'S Mysteries Echelon The Most Secret Spy System

エシュロンは、冷戦中に開発された他の電子盗聴システムとは違い、軍事施設の監視だけを対象にしていたわけではなかった。そのため、それが見張る対象は、初めから、あらゆる国の政府、団体・組織であり、日常的に交わされる大量の通信を、今なお無差別に吸い上げ続けている
エシュロン参加各国は、それぞれの監視対象(人・企業・事件など)について、キーワードやキーフレーズ、人名や場所あるいは特定の電話番号やメールアドレスなどを記した「辞書」を作成し、配布する・・・エシュロン基地のレーダーは、地上を駆け巡る情報の中から検索タグを含む通信を識別すると、自動的にメッセージを取得[*つまり窃盗]して、それを求めるカスタマー(顧客:政府機関)に転送する。
・・「辞書」のほかに使用されているのが、NSAが作成した「ウォッチリスト」(監視リスト)だ。暗号名を「ミナレット」と言う・・何しろ対象はすべての情報である・・世界中を飛び交う雑多な通信― 個人的会話から、企業間の取引情報、外交通信に至るまで―を、専門のアナリストたちが、このリストにもとづいて監視しつづけていた。ベトナム戦争の頃には、アメリカ国内の反戦運動の高まりを恐れた政府によって、反戦運動家やそれを支援する著名人たち―映画俳優のジェーン・フォンダや、小児科医のスポック博士、そしてマーチン・ルーサー・キングなど―も軒並み「ミナレット」リストに入れられ、常時監視下におかれていた。FBIがキングに対して偽情報を送るなどして陥れようとしたのは、有名な話だ。
 ・・この巨大な盗聴組織にかかわっているのは、軍組織だけではない。NSAは、無線通信大手のITTワールドコミュニケーション、ウェスタン・ユニオン・インターナショナル、RCAグローバル社から盗聴許可を得て、何十年にもわたって国内、国際通信を傍聴していた。
「オペレーション・シャムロック」と呼ばれたこの盗聴活動の存在を明らかにしたのは・・アメリカ議会のチャーチ委員会だった。この調査委員会で、NSA長官は・・「NSAは国内・国際通信を、音声、ケーブル共にシステム的に傍聴している」と証言している。(p.p.158-159)

急速な技術の発達は、往々にして法制度を置き去りにしてしまう。その技術がもたらす「負」の側面を、社会が認識するにはかなりの時間差が生じてしまうのだ。その時間差こそ、先行する企業にとっては貴重な営利追求のチャンスとなる。(p.166)

 日本の企業活動に関して、エシュロンの仕業とされている事例はいくつかある。
ドイツの「シュピーゲル」誌は、1990年、インドネシアと日本のNEC社間で取り交わされる予定だった2億米ドルの取引についての通信を、NSAが傍受したと報じた。これにブッシュ大統領(当時)が介入し、契約相手はNECAT&Tに二分されたという。1993年には、クリントン大統領が、CIAにゼロ・エミッションとして発売予定の日本の車メーカーをスパイし、そこで得た情報をビッグ・スリー(フォード、ゼネラルモータース、クライスラー)に提供するよう求めたという。
ニューヨーク・タイムズは1995年、東京のNSACIA支部は、ジュネーブで日本の車メーカーと交渉中のアメリカ通称代表部、ミッキー・カンターのチームに詳細な情報を提供していたとリポートした。・・クリントン大統領は1993年、シアトルで行なわれたアジア太平洋経済会議(APEC)に大規模なマス・サーベイランス作戦を行なうようNSAFBIに命じたという。(p.167)

1999年11月に・・アメリカ・シアトルで行なわれたWTO第3回閣僚会議に、国内外から10万人もの人々が押しかけ、WTOの改革(あるいは解体)を求め・・会議は結果として流会になった。(クリントン大統領は93年同様、大規模)監視を行なっていたことはまちがいない。それにもかかわらずWTOは失敗した。その頃、欧米では、事実を報道しない大手のメディアを嫌う、「独立系」メディアが数多く生まれていたが、「普通の人々」は、そこから情報を得、そしてその呼びかけに応じてシアトルをめざしたと考えられる。・・アメリカ政府は、この失敗の教訓、そしてエシュロンの「発覚」から新たな「決意」を持つに至る。・・国内外で反発が強まったり、「地殻変動」や「革命」の危険にさらされたりすると、アメリカは常にある「解決策」に訴えてきた。戦争である。そして、そこに9・11事件が起きた。
そして状況は一変してしまった。アメリカは新しい仮想敵国を手に入れた。「テロリスト」という名の、実体のない敵である。ついで政府は「テロとの戦い」を名目に、考えられるあらゆる人間を公然と監視下におく条件を整えた。そして、実在しない大量破壊兵器を保有しているとして、イギリスと共同してイラク攻撃を開始し、ほとんどの国民の目をそちらに向けてしまった。国内ではパトリオット・アクト(愛国者法)をはじめ、軍・政府の監視を可能にする各種法令を矢継ぎ早に成立させている。

いずれもネット時代を意識した法令で・・ブロードバンドのプロバイダーなどに、インターネットの「盗聴窓」を開けておくように求めている[もとは電話盗聴が対象]。(p.p.170-171)

2 comments:

  1. Wikipedia: Echelon

    日本にもエシュロン傍受施設は存在し、青森県の三沢基地に置かれている。また朝日新聞も2001年に、日本を含むアジア・オセアニア地域に置かれた傍受基地の存在を報道。 日本政府、日本企業も監視の対象とされており、無線、短波無線、携帯電話、インターネット回線など、ありとあらゆる日本国内の通信が常に傍受され、データはニュージーランドの通信所に送られてエシュロンに蓄積されているという。

    1980年代から90年代初頭における、アメリカ政府の度重なるダンピング提訴や、日本企業とアメリカ企業との間の受注合戦や訴訟合戦において、アメリカの国益を守るために、三沢飛行場、ワシントン州、ニュージーランド、オーストラリア、香港(現在は撤去)のエシュロンをフル稼働させた可能性があり、それが日本の企業活動に大きな損害を与えたとされる。

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  2. Wikipedia: Echelon

    参考文献
    紀藤正樹『「エシュロン」とは何か』(MacFan2000年9月1日号)=原稿を紀藤正樹弁護士が自身のホームページにアップしている⇒ 『「エシュロン」とは何か?』
    産経新聞特別取材班 『エシュロン――アメリカの世界支配と情報戦略 』(角川書店、2001年)ISBN 4-04-704058-4
    鍛冶俊樹『エシュロンと情報戦争』(文春新書、2002年)
    小倉利丸『エシュロン――暴かれた全世界盗聴網 欧州議会最終報告書の深層』(七つ森書館、2002年)
    ニッキー・ハーガー(佐藤雅彦訳)『シークレット・パワー――国際盗聴網エシェロンとUKUSA同盟の闇』(リベルタ出版、2003年)

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