Saturday, February 5, 2011

『洗脳の心理学』 高橋紳吾

Takahashi, S. (1995). Sennō no shinrigaku.

  テレビコマーシャルをはじめとして、情報というのは
送り手の意志が強烈に伴い、受け手に明確な価値基準が
ないと、知らないうちに身も心も操られてしまう危険性を
はらんでいるということなのである。それを悪意を持って
利用し、人の権利や自由を侵害するのが、「マインド
コントロール」ないしは「洗脳」であり、
・・・「宗教カルト」と言われる熱狂教団の得意
とする手口なのである。
・・こうした信者たちの姿は私たちと無関係なものではなく、
興味本位や野次馬根性で眺める“対岸の火事”ではけっして
ないということなのだ。
「洗脳」とは・・脳を洗い、洗って真っ白になったところへ、
新しく思想改造、人格改造をすることである。
また「マインドコントロール」とは、自ら洗脳されたと
気付かないうちに、心理操作されることである。
(p.p.20-22)

 洗脳は、仕掛け人にとって都合がいい情報操作だ

 洗脳は・・広範囲にわたって人に影響を与えるものまで、
われわれの認識とは関係なく日常レベルまで
はいり込んでいる。
 ・・では、思考や感情、行動をコントロールしてしまう
隠された“武器”とはいったい何なのだろうか。
それは情報である。・・仕掛け人によってつくられた情報を
植え付けることによって、思考を統制し、感情や行動までも
方向転換させるのである。“心理の操作”は極端に一方的な
“情報の操作”と言える。仕掛け人は、すべての情報を
コントロールし、自分たちに都合のいい情報だけを、
さもすべての情報のように提示していく。仕掛け人にとって、
不都合な情報は、「間違った情報」として
シャットアウトしてしまうのだ。
(p.p.24-25)


  スタンリー・キューブリック監督の作品に、米国海兵隊を
テーマにした「フルメタル・ジャケット」という映画がある。
これは、ハートマンという鬼軍曹が海兵隊員を志願した新兵を
教育し、若者を軍服を着た戦争用のマシンにさせるまでの
すさまじさを描いたものだ。
・・そこで軍人は、自分の存在に対して疑念を抱いては
いけないように徹底的に洗脳される。「何で戦争をするのか」
「殺りくは、非人道的行為だ」と言いはじめたら収拾が
つかなくなってしまうからだ。洗脳は、思想自体に矛盾が
あっても、その矛盾を塗りつぶしてしまうものであり、
それについて深く考えさせないように思想統制を
図ることでもある。

(*ブログ筆者注:現在、米海兵隊では不合理な上官の命令には

理性で考え、敢えて背く訓練も行なわれている)
(p.p.66-67)


洗脳の行為は、“善意の仮面”をかぶっている

  生まれてこのかた、不安や恐怖、不満というものを
一度も感じたことがないという人間はいない。
・・こうした精神的にマイナスの部分、欠落する部分が
あると、ふつう人間はその部分を補填しようとする意志が
潜在的に働く。・・なんとか状況を改善したいと願うのだ。
そして行動を起こすことがある。
・・・やっかいなのは、じつにそういうところにマインド・
コントロール、洗脳という行為がはいってくるのである。
つまり「あなたの不安や不満をいっしょになって改善して
あげますよ」と言葉巧みにすりよってくる。“善意の仮面”
かぶっているから、まずほとんどの人は疑わない。・・
  自分には悩みがないと思っている人間にも、かならず
心のなかにはそうしたものの種を持っているものだ。
  そんなとき、洗脳はまずその種を掘り出し、強調する
ことからはじめる。どんな人間にも、洗脳される要素は
かならずあるのである。
(p.74-76)
    人の意識をこちらに向けるには、大きな声ではなく、
小さな声でささやくように話すのがポイントだ。それは、
聴覚は受動的な感覚でありながら、聞き耳を立てる場合
には、能動的なものに変化していくからである。
・・ヤクルトの野村監督が現役時代、キャッチャー
だった彼は、バッターボックスにはいる相手チームの
バッターに対して、「次はカーブで勝負するか・・・」
「さっきはシュートで三振だったよな・・・」などと
つぶやいたことは有名な話だ。このつぶやきは、情報を
インプットすることによってバッターの集中力を乱す
だけでなく、相手の心理をコントロールして思考を
鈍らせ、心が読まれているような錯覚に陥らせる。
(*ブログ筆者注:この本は思考解読機器の存在が公表される
以前に出版されたものです)
(p.32-33)



老人は洗脳されにくい

  老人が洗脳しにくい理由は・・“懐疑的”であるからだ。
洗脳する内容というものは、できれば単純明快でわかりやすい
もののほうがいい。あっちは敵でこっちは味方、あっちは
反共産的でこっちは人民的、・・とか、そういうふうに
ハッキリと白黒つけるような説得のしかたが、とくに若い人
などに対してひじょうに効果的なのである。
  ところが老人は・・長く生きてきた人生経験があるから、
(人生はとてもそんなもんじゃない。そんな簡単に
割り切れるものじゃない)という考えがどこかにある。
(p.91)

洗脳されやすい人は、“脱洗脳”もしやすい

  一般的にいえば洗脳されやすいタイプは、脱洗脳もしやすい。
このようなタイプは暗示にかかりやすく、付和雷同型で、
説得されるとすぐに「ああ、そうか」と思ってしまうのだが、
それは違っていたよと言われると、また簡単に「なるほど」
ということになる。
  これとは逆に、知識があってプライドが高く、自己の信念を
ガッチリ持っている人、また疑い深くて自己否定の傾向の強い人
などは、なかなか洗脳しにくい。そのかわり手間隙かけて
じっくりと洗脳され、いったんカルト組織に組み込まれると、
今度は脱洗脳するのも容易なことではないのである。
(p.p.94-95)

 

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