Sunday, March 24, 2013

五木寛之・香山リカ『鬱の力』

Itsuki, H., & Kayama, R. (2008). Utsu no chikara. Tōkyō: Gentōsha.

(香山リカ)2006年、日本では自殺者が三万二千人を超えました。九年連続で三万人を超えています。これまでの八年間を振り返ると、自殺の原因はやはり経済的な理由だといわれていた。ところが2006年には、一応、不況は脱したことになっていて、格差はあるにせよ、景気がいい状況でした。にもかかわらず、自殺者がほとんど減っていなかったことは、けっこう衝撃的だったんです。
 
見えないアパルトヘイトが進んでいる

(五木寛之)戦前は天皇陛下が行幸なさるときは、その地区では一斉保護というのが行なわれました。過激な思想の持ち主とか、精神病の前歴がある人たちがとくにマークされて、身柄を拘束されたんです。いまも昔ほどではないにしろ、天皇陛下の行幸が近づくと、その地区の逮捕が増えるそうです。・・・アメリカの大統領が来日したときも、やはり予防措置は徹底的にやってますね。

(香山)ただ、そうした病気を持ってるほうが犯罪の発生率が高いという統計はなにもないんですね。むしろ病気の人のほうが、犯罪を起こす率は低いんです

(五木)いま、監視カメラの普及は恐るべきものがある。気がつかなところで、みんな撮られています・・・密かに登録されて監視される。そうしたアパルトヘイトみたいなことが、目に見えない情報ネットワークのなかで行われているほとんどの人が選別されてリストができているのに、誰も気がつかないだけ、という社会になりつつある気がします。

(香山)一般の人も、うすうすは知っていても、そうなるのはやむをえないだろうと思っていますよね。

(五木)いまアメリカでは・・テロ対策の保安検査だというと、なにも言わずにベルトを抜いて、子羊の群れのようにうなだれて、裸足で床の上を歩いている。アメリカ人というのは普通はわりと自己主張する人たちですが、国の安全、テロ対策という錦の御旗さえあれば、基本的人権なんてことは考えもせず、みんなおとなしくなってしまう。憂鬱な子羊の群れのような彼らの姿を見たとき・・自分たちの人権さえも放棄するという意識になっているのを感じます。
 


(香山)私が住んでる町では最近、自警団みたいなものができて、おじさんたちがすごく楽しそうに「よそ者を排除してやるんだ」という感じで見回りをしている・・・いまは文部科学省も自警団とか保安隊とかを育成したり、そういう町内のパトロールを奨励してるんです。(p.138-139)


『鬱の力』五木 寛之、香山 リカ